ウェブデザイナーが一条ゆかりの「デザイナー」を読む。タイムマシンとしての一冊

今回は読書感想で、一条ゆかり氏のデザイナーという本について解説します。

この作品1976年、私が生まれる前に描かれた作品ですが、一言で述べるならば、

これぞ昭和の少女漫画

といった感じでしょうか。

恋愛、成り上がり、復讐劇、結婚、略奪、禁断の愛、BL、悲劇、それらが全て詰め込まれた1冊です。

しかも、それらの要素が非常に高いレベルで描き出されています。

もちろん、少女漫画としての成り立ちであるがゆえ、に非常にファンタジックな要素なども多々あります。少女漫画だからこそ成り立つような、おとぎ話的要素を挙げればキリがありません。

しかし、それらのおとぎ話としてのストーリーが圧倒的な画力によって作品として昇華していると言うにふさわしいストーリーです。

このように、よくできたおとぎ話とは、時代が変化したとしても、陳腐化することなく、まるで、その時代のファンタジーを眼前に見せるタイムマシンのような印象さえ与えます。

圧倒的な画力やストーリー構成に支えられた超一流の作品とは時代が変化しても風化しません。

細部に目を向ければこれぞ少女漫画といった感じでしょう。当時の少女達が憧れるであろう要素を、「これでもか」と詰め込まれています。

自動車を例に上げるなら、トヨタ2000GT、ケンメリスカイライン、30フェアレディZ、2cv、ムスタングなどなど…。また、それらが非常に丁寧に描き込まれているのです。

もちろん、デザイナーや編集者といった職業が、当時、それらの車に「乗れたか」という問題はさておき、です。

しかし、それらの小道具が当時、この作品を読んでいた少女達の心をときめかせた事は言うまでもないでしょう。

なぜならばコミックとは当時も今もエンターテイメントであり、そして、少女漫画というジャンルは少女達に憧れを抱かせることこそ正義でしょうから。

私はウェブデザイナーというお仕事なので、衣服のデザインとは、だいぶ違う場所にいるのですが、担当させていただいているお客様の中にセレクトショップの方が居られるため、割とこういうドロドロとした業界であることは、あながち嘘ではない、、、、、かも、という気もします…。

しかし、この作品が作れた1976年当時は日本が高度経済成長期でイケイケドンドンだった時代であったことを強く実感します。

この作品はおそらく何人ものアシスタントを使って作られている、しかも、今のようにコンピューターもなくスクリーントーンの種類も多くなく、ほぼ全て手書きによって作られている作画です。

手書きであるからこそ手抜きができない、そして、ごまかしがきかない、そして、それらの高いレベルの作画にファンタジーの物語が結実したときに、このように素晴らしい作品が残されるのでしょう。

また、少女漫画としてのデフォルメは当然ありますが、デッサンがしっかりしているからこそ、今でも「きちんと読める」のでしょう。

ちなみにウィキペディア等によると、この作品が掲載されていた「りぼん」の当時の発行部数は公称100万部と言われますが、当時の経済状況などから考えると立ち読みなどをした少女の数を入れれば、あながち嘘とは言えない数字でしょう。

確かに百万人近くの読者が読むのであれば超ハイレベルの作品が生み出される事に納得です。

美しい作品とは年月を重ねても、その美しさは時代を超えた輝き方をする、そんな事を証明する一冊でしょう。

PS この物語、ラストで「そういう設定ですか…💦」となる部分があって、そのような「設定」すら、「昭和の物語」としての楽しみ方として許容できるのかな、と思ったりします。

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